バウル剣道同好会 オイノリのセルジオの巻


バウル剣道同好会

オイノリのセルジオの巻

マッサージ師のセルジオの他にもう一人セルジオがいる。こちらはカタコトの日本語を話す日系人。物理専攻の大学生だ。ニッポ会館近くにある日本の宗教団体の信者で僕は密かにオイノリのセルジオと呼んでいた。

道場には五十CCのバイクに防具を積み、竹刀を肩に斜めにかけてやってくる。
バイクの鍵に「蟹」と漢字で書かれた木の札をぶら下げている。
「蟹って何だ」と聞くと「蟹座の生まれですから」と自慢げに答えた。

構えは中段の正眼。一度試合で一本取られた経験がある。
遠慮がちな性格なのか稽古では攻め込まずいつも後ろに下がり気味だ。
そして「これで良かったですか」と面越しに小声で聞いてくる。
僕に人に教えるほどの実力は無いけれど少しの経験差で何かは言える。
「いいね」と返事をするとお面の中でセルジオは嬉しそうに微笑む。
篭手打ちの後には「今の篭手は全部入ったでしょうか?」と近寄ってくる。
「入っている、入っている」と答える。
しばらく元気に打ち続ける。
「今のはいい打ちでしょう」とセルジオの鼻が少し膨らんでいる。
「駄目ね、右打ちだ」と僕。
すると急に勢いが無くなりいつもの控え目なセルジオに戻る。
稽古が終っても暗い顔が直らない。このままでは彼を帰せない。
「君は二拍で打っているから一拍にすると動きが早くなるよ」
「こんな感じでしょうか?」とセルジオは竹刀を振ってみせる。
「いいね、いいね」と誉めれば少し幸せな気分で稽古を終えられる。

翌週の稽古、セルジオが一拍の拍子で打ち込んでいた。
こっちを見て「どうです。いいでしょう」と自慢そうな顔で言う。
「駄目ね、足捌きが」と僕は答える。

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