バウル剣道同好会 セルジオの巻

 

 

バウル剣道同好会

 

セルジオの巻

「ベジタリアンであってもピザ好きなので僕はウルトラ・ベジタリアンではない」とは本人の弁明。職業はマッサージ師。
三十歳を少し過ぎた中肉中背。頭は自分で剃り上げ、髭を蓄え、大きな黒い瞳が顔の真ん中で輝いている。
「レーニンそっくり」と僕は皆に言うのだが若いブラジル人たちは誰も興味を示さない。
ミドリはオイノリ(注)のセルジオと区別するため、こっちのセルジオをチャイニーズのセルジオと呼んでいる。
ヨーロッパ系(オイノリは日系)なのにチャイニーズではおかしかろうと思ったが、確かに古いハリウッド映画に出てくるチャイナの王様はこういうメイクアップをしていたのを思い出して納得した。

セルジオは日本の歴史、特にサムライの逸話が好きで何か話をしてくれといつもせがんでくる。
僕だって日本が好きだと言われれば悪い気はしない。何処かで仕入れてきた話を秘密を語るスパイのように語って聞かせた。

司馬遼太郎で読んだ馬庭念流の上段から脛を打ち込む形の話と想像的実演。

三浦為継が従兄の鎌倉権五郎の右目に刺さった矢を抜いてやろうと顔に足を掛けると権五郎が怒って切りかかった話と想像的的実演。

箙に梅の枝を刺し合戦に出かけた梶原景李や勅撰集選者に歌を託して合戦に散った平忠度たちの歌心について。

一刀流剣術は鹿島神社で生まれた為日本の剣道場には鹿島明神を祭っている話と鹿島のサッカーチームにはブラジル代表チームの元キャプテンがいるという話。

古いチャンバラ映画でのナンバ歩きと盆踊りの裾捌きの共通性の発見と模範演技。

全部うろ覚えの法螺話ヨタ話の類で、種本を十倍も百倍も大きくして話す。それでもセルジオは眼を輝かせて聞いてくれる。

或る日セルジオが防具を付けるのを許るされ喜んでいた。
「防具は持っているの?」
「古いのを譲ってもらう予定」
「手拭は?」
持っていないと言う。
次の機会に日本の何処かの秋祭りで貰った(三つ巴のマークが染められていた)新品の手拭を差し出すと押し抱いて「額に入れて家宝にする」と。
「これはそんなものじゃない」と言っても涙目で「ありがとう」と両手で僕の手を握りしめて離さない。
人に何かを贈って喜ばれるのは嬉しいけれど、それがソーメンなら食べて欲しいし、レコードなら聞いて欲しい。
その感激はどこか間違えてはいないかと僕は少し心配した。

防具を初めて付ける日、お面を前にしたその頭には案の定、自分で縫い上げた白い綿布が巻かれていた。
あの手拭は本当に額に入れられ飾られているらしい。
仕方が無いのでもう一本進呈した。

 

注:ミドリもオイノリのセルジオもいつか登場予定です。

2017 Aug.11

 

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