寺前浩之のエッセイ



<文 寺前浩之>


寺前浩之のエッセイ

(2) 「トレモロ」





ギタリストやマンドリニストは、管楽器やバイオリンのような持続音の出せる楽器に一度はあこがれを持った事があるのではないでしょうか。

Batutas

管楽器やバイオリンが、ある音を任意に伸ばせるだけでなく、さらにその音にクレッシェンドさえかける事が出来るのに比べて、撥弦楽器奏者の右手は指であれピックであれ、弾いた音そのものに対して出来る事は何もありません。

中でもギターよりさらに弦長が短く、音の減衰が速いマンドリンはバイオリンの持続音を模したトレモロという技術を発達させてきました。
マンドリン音楽はその黎明期に於いては、同じ調弦であるバイオリンを規範としていた事は明らかで、その中で生まれてきたのが同じ音を速く連続で弾く事で持続音の効果を出すトレモロであると言えましょう。

Fafá Lemos

一方、ショーロ楽器としてのバンドリンはどうでしょうか。クラシックマンドリンとの奏法上の違いを説明する時に「ショーロではあまりトレモロを多用しません」という文言をよく目にします。

これは実際その通りなのですが、それは何故でしょう。
フレーズの段落に長い音価の音符がある時、クラシックマンドリンでは指示がなくともトレモロで弾きますが、ショーロの場合はそれは演奏者の判断に任されています。何故ならそこは他の楽器による合いの手、中でも7弦ギターのバイシャリーアと呼ばれる低音の対旋律が埋めるべきスペースだからです。

同じギターでもクラシックとフラメンコで全く奏法が異なるように、楽器の技術は演奏する音楽のスタイルに沿って発展します。

Curitiba no Rádio PRB-2 de 1934 à 1939, Irmaos Otto

そもそも管弦楽とショーロではアンサンブルの形態が全く違います。
マンドリン合奏はヴィオラ、チェロに相当するマンドラやマンドロンチェロと共にハーモニーを積み上げていくものですし、方やバンドリンはカバキーニョ、パンデイロのリズムの上でソロ楽器として、7弦ギターや他のメロディー楽器と対話する役割を担っています。

もちろんショーロでもトレモロで朗々と歌う事はありますが、それ以上に要所ではアタックを効かせた音で、リズムのポイントを「点」として示していく事が求められます。

最近ではクラシックマンドリンからショーロに興味を持つ人、逆にバンドリン奏者でクラシックを学ぶ人も増えてきているようです。
元々は同じ楽器、双方の特徴がうまく混ざり合って表現の幅が広がる事は自然で素晴らしい事だと思います。

May 18 2012
エッセイ・バンドリン

注:記事内の写真はインターネット上、ダウンロードできるものを添付しました。