連載 エッセイ ヴィラ=ロボス




<文 宇野智子>


※今回は番外編。旅で感じた「音」をめぐる気ままなエッセーです。
生涯、赴くことは無いだろうと思っていたインド。ヨーロッパを周遊し尽くした友人の誘いに乗ってしまいました(笑)。
「若いうちに訪ねておきたかった」という友人の弁でしたが、行ってみると欧米人、アジア人含め、様々な年齢層の観光客がいました。
インドの空気感を忘れない内にと書いたもので、勘違いや思い込みもあるかと思います。あくまで私の主観、一観光客の印象ということで、どうかご容赦下さい。



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(23) インドの「音」をききながら 1



一週間ほど北インドへ行って来た。成田からデリーへ到着後、国内線飛行機や車を使って、ガンジス川を抱くバラナシ(ベナレス、ワーラーナシー)、アグラ、ジャイプールを周遊する移動距離にしておよそ1800kmの旅。
パッケージツアーのはずが、蓋を開けてみればメンバーは、私と同行者である友人の二人だけだった。デリーの空港で出迎えてくれたのはインド人ガイドのアラムさん。彼と運転手の四人旅とは何となく贅沢な気分だ。旅行代理店によれば、インドのツアーではよくあることらしい。

パッケージツアーだけあって移動は多く、世界遺産やガンジス川といった見所をくまなく廻れる内容。ツアーにありがちな(鬱陶しい)土産物屋とか大理石細工や染め物の工場見学も付いている。とはいえ物を作る現場を見るのは楽しい。

自由行動が殆ど無いのが残念だけれど、その分、ホテルや移動の車中でゆっくり音楽でも聴くか…。インドでヴィラ=ロボスを聴いてエッセイを書きますと宣言した手前もあるし、涼しいホテルで、あるいは異国の車窓を眺めながら音楽鑑賞というのもオツではないか。

そういう目論みは、デリーに着いた瞬間に雲散霧消した。

うるさい。とてもうるさい。

ruas na india

道路を走る車という車が軒並みクラクションを鳴らす。車だけではない。ジリジリとベルを鳴らすのは、人力車と自転車。ひときわ甲高いクラクションはバイクとオート三輪車。道を渡る人、そこを走るあらゆる乗り物、互いに道を譲らないものだから、何とか隙間を縫ってすれ違うしかない。
車線変更で入り乱れた末、にっちもさっちもいかなくなった車同士お見合い状態になり、窓を開けて口々に何か喚き合う。
側面に噛みタバコのようなの赤い唾の跡をつけたすし詰めのバスが、大胆にスピードを上げて狭い道を通り過ぎる。

車が止まれば、貧しい子どもたちが近付いて来る。窓越しにじっと見つめ、口に右手を持って行く動作を繰り返すのは、食べるものを(買うお金を)下さいというジェスチャーなのだろう。
窓を叩く間は精一杯可愛らしく、そして得るものが何もないと見切りをつけるや、むしろこちらをゴミ屑みたいに見る表情の対比。その逞しさは見事ですらある。
もっともそういう人たちに金銭を与えることは、現在インドで禁止されているらしい。

そんな喧噪の中で思った。ここはデリーだ。都会だからこんなに騒がしいのは当然だけど、移動中は静かな道も通るに違いない、と。

Horn PLS

しかし、道路はどこへ行っても同じだった。妙に白々した太い白樺ばかりが並ぶ田舎を走っていても、突如バラックがひしめく集落が現れ、屋台に群がって道路にはみ出す人々と、トラック、オート三輪車のクラクションの叫喚が始まる。
お尻にHorn Please、Blow Hornと派手なペイントを施した当のトラックが鳴らすホーンは暴走族のパラリラパラリラをもっと賑やかにしたようなやつ。そしてトラックごとに微妙にメロディや音域が違っていることに気づく。さすがインド、ホーンまで微分音とは筋金入りだ。

続く
2014 08 01
トラック以外の写真は著者より