連載 エッセイ ヴィラ=ロボス

<文 宇野智子>


インドの「音」を聞きながら 3


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道中、突如顔を覗かせる極彩色の建造物はヒンドゥー教の神々を祀った寺院だ。特に訪れたのが巡礼の祭りの期間だったらしく、オレンジ色のTシャツと短パン姿の信者たちが路肩を歩いているのが目に付く。日本の神輿を天秤棒に載せたようなものを持ち、日に50kmも60kmも歩いて、ガンジスの水を寺まで運ぶのだという。

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川の近くでは、汗なのか沐浴の水なのか、体中びしょ濡れになったオレンジ色の行進が続く。そんな鮮やかな色彩を纏った人々が崇めているのは色の無いガンジス川。
彼らの横断に道を遮られた車が鳴らすクラクションの音が響く。

街に出ると、路上にひしめく人の体臭、スパイスの香り、牛糞の臭い。車の窓にべたりと付いた物を乞う人の手垢。片や観光客にサーブされる食べきれない量の食事。

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人や車の喧騒に引き換え、殆ど吠えない犬。手入れされて毛艶も良い若い牛と、老いて骨の浮き出した牛。喜捨としてふんだんに餌を投げ与えられ数を増やす鳩と、食肉として狭い檻に押し込められている鶏。路上で寝ている痩せた人々。

未舗装の道路で、タイヤが跳ね散らかす小石が車体に当たる音。強い日差しの合間から突如として降ってくる雨粒。切れ目なく、矢継ぎ早に繰り出される英語(通称ヒングリッシュ)。そして妙に流暢な日本語。

空港だけでなく街中にも、自動小銃を肩から下げた軍人がたむろしている。磨かれた銃床に使い込まれた感じが漂う。

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ヒンドゥー教徒のアラムさんはイスラム教系の寺院巡りでは明らかにやる気が半減していたようだった。

タージマハル、ヒンドゥーの寺院、イスラムの寺院…赤みがかった外観の建物が並び、ピンクシティとも呼ばれるジャイプールの街並み…。

それらは来年も、5年後も、さらに先も、おそらく訪れた万人に同じ姿を見せることだろう。だが、人の営みが紡ぎ出す膨大なノイズ、インドで私の五感が受け止めたのはその時、そこにしかなかったものだ。

その瞬間に私が垣間見たのは、自分が取り組んでいるヨーロッパやラテンの音楽とは全く異なる音の世界だった。


おまけ:お腹具合について

インド渡航を知った多くの方に心配され、また自身も不安の種でした。
帰国した日とその翌日、エイリアンの寄生体が腹を突き破って来るような(!?)痛みに時おり襲われましたが、どうやら胃腸がスパイスの応酬に疲弊していただけだった模様。
旅行中の食事が消化吸収というプロセスを経て体外に出た今、お腹は平和を取り戻しております。
食後欠かさず飲んでいた正露丸に感謝。

2014 08 15
写真は著者より

〈インドの「音」を聞きながら〉編は今回で終了します。