2015年5月30日

アナクレット・デ・メデイロス

Anacleto Augusto de Medeiros
(1866-1907)

 

Corpo de Banda de Bombeiros

アナクレット・デ・メデイロス

アナクレット・デ・メデイロスの「エスタ・セ・コアンド」。僕はこの曲を聴く度、妙に懐かしい気分に陥るのですが、どうしてそう感じるのかが分からない。見たことも無い風景が現れて心が揺さぶられるのです。

見知らぬ風景が懐かしい…思い当たる節があります。

ブラジルの音楽に明治の浮世絵を持ってくるのは卑怯な気もしますが、小林清親や井上安治の光と影と同じような波長ではないかと疑っています。

ブラジルの田舎を旅していると100年前の姿がそのまま残っている町に出会うことがあります。教会と役場が町の中心。二つの建物を挟んで広場が設けられています。今でも手入れが行き届き花壇で飾られたりして大切に扱われていることが分かります。広場の中央に立つ屋根と柱だけの建物はコレットです。往時、祝祭日にはコレットに音楽隊が陣取りその回りで着飾った町の人々が踊っていたのでしょう。楽隊は町の駐屯軍付属音楽隊に違いありません。

室内で演奏される小さな編成のコンジュントとは別にコレットや広場等の屋外で演奏する楽隊が19世紀終わりごろから20世紀初頭にかけブラジルの各地に生まれました。

アナクレット・デ・メデイロスはリオデジャネイロとニテロイに挟まれたグアナバナ湾に浮かぶパケッタ島で生まれで同地で独身のまま亡くなりました。
聖アナクレット(第3代カトリック教皇)と同名ですが解放奴隷であった母親が名付けたのかどうかまでは分かりません。

9歳でリオデジャネイロ軍需工場内学校に入学。アントニオ・ドス・サントス・ボッコ指導の付属楽隊に入りピッコロを始めます。
18歳で政府の公報局に植字工として就職し同時にリオデジャネイロ音楽院に入学します。
教授陣はジョアキン・カラッド(フルート)、ジョアキン・ジアニーニ(作曲)、カルロス・デ・メスキータ (和声)、デメトリオ・リベロ(バイオリン)等々。

公報局在職中に少年達によるゲッテンバーグ音楽クラブを結成し、またパケッタ島に散在していた小バンドを集めパケッタ島民音楽レクリエーションクラブを創設しました。
1886年にクラリネット演奏者として認定され音楽学校を終えます。バング繊維工場楽団、おサル繊維工場楽団、ピエダージ楽団等々、この後もアナクレットは数多くのバンドを編成しました。

アナクレットの功績の一つはヨーロッパ由来の音楽をブラジル化したことです。彼の曲は歌詞を付けられ新しい名前でブラジル全土に普及しました。
「トレス・エストレリーニャス」が「オ・ケ・チュ・エス」、「テルナ・サウダージ」が「ポル・ウン・ベイジョ」、「ベンジーニョ」が「センチメント・オクルト」等。

「イアラ」は カツロ・ダ・パイション・セアレンセにより「ラスガ・オ・コラソン」として出版されました。この詩からインスピレーションを受けたヴィラ=ロボスは「ショーロス第10番」を作曲しました。

1896年にリオデジャネイロ消防警察音楽隊の運営を任されました。
当時アナクレットは聖セバスチャン近くのアジューダ通りに住み、そこから聞こえる鳥の声、工場の汽笛、流しの角笛、教会の鐘の音、自動車の警笛、工場の交代の笛、すべてを作曲に利用しました。繊細で鳩のように優しい人柄が一旦指揮棒を持つと楽団員には地獄の大王の如く厳しく恐ろしかったようです。ここからカラモーラ、カゼミロ・ロッシャ、イリネウ・デ・アルメイダ等が巣立っています。

楽団は商業的な大成功をおさめ数多くのレコード録音を残しました。
ブラジル最初のレコード会社エジソンのカタログにはアナクレットの曲が49曲掲載され、楽譜も90曲近く出版されたと文献に残っています。
ブラジル中でアナクレットのマーチやポルカが鳴り響いていたはず。1902年一連の功績により共和国陸軍の上級中尉に任命されました。

当時のショローンたちはアマチュアで、正業があり、ダンスパーティーでの演奏は無報酬。パーティーの楽しみは演奏そのものと料理や飲み物だけでした。
消防警察音楽隊の商業的な成功がこれに倣う楽団を各地に誕生させます。これらの楽団から報酬を得ることで器楽演奏が職業として成り立ち始めます。アナクレットはポピュラー音楽演奏家のプロ化への道筋をつけたということでしょうか。

アジューダ通りではユーモリストで公報局のモレイラと一緒に住んでいたと「オ・ショーロ」のアニマルが語っています。このモレイラ、多分少年時代の同僚でしょうが、どんな人物だったか調べても分かりませんでした。
ジョアキン・カラッドとヴィリアット・シルヴァのような間柄だったのか、アニマルは何も語っていません。

1935年故郷のパケッタ島の一つの通りに彼の名前が冠されました。

2016 Apr.
貝塚

 

参考:Enciclopedia da Musica Brasileira – Art Editora
Almanaque do Choro(Andre Dias)
O Choro (Alexandre Goncalves Pinto)
Acari Records
Musicos do Brasil, Uma Enciclopedia Instrumental
O Choro by Alexandre Goncalves Pinto

ショローンとその時代

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