クラウジオノール・クルス
Claudionor Cruz
1910 Paraibuna – 1995 Rio de Janeiro, RJ
10年程前、クラウジオノールをオマージュしたCDを参考に小伝を書きました。
ところがうかつにも彼の音楽人生の大きな地位を占めるテノールギターについての記述を抜かしていました。
そこで書き直おそうと思います。勝手に故人の墓標を書くのです。
勝手に賞を授与する「三浦じゅん賞」ようなものです。(では無い!)
今から凡そ110年前、クラウジオノールは音楽に囲まれた家族に生まれました。
父親は楽団指揮者兼トロンボーン、トランペット、ユーフォニウム奏者であり、兄弟たちもそれぞれ楽器を弾きました。
兄弟は全部で21人! 父親は楽器同様、数多くの女性を愛したようです。
クラジオノールの最初の楽器はカイシャ、ブンボ。次にカバキーニョにギター。そして最後にテノールギター。これが一生の楽器となりました。
北米出自で「トリオリン」と呼ばれていたテノール・ギターは1930年にアンジェロ・デル・ヴェッキオ(工房はサンパウロ市オーロラ通り)の手で「テノール・ギター・ダイナミック」”Violão Tenor Dinâmico”と名付けられブラジルでもデビューしました。
この楽器に魅せられた二人の伝道師はクラウジオノールとガロートの二人。1930年代テノールギターを使うレコードはこの二人に独占されました。
当フォンフォンサイト内の寺前浩之さんのエッセイでテノール・ギターについて詳しく触れられています。興味のある方はどうぞご覧ください。
いつクラウジオノールが田舎からリオ・デ・ジャネイロへ出て来たのかは手元の資料では見つかりませんでした。カーザ・デ・ショーロによると音楽家としてのデビューはリオのプラサ・ダ・バンデイラで興行していたサーカス団デュデュとのことです。
本格的な音楽家の道に踏み込んだのは17歳の時にアルミランテの紹介でラジオ・テュピに仕事場を見つけてからで、ここでの経験をもとに自前のレジオナルを組み、ラジオ・グローボを初めとするラジオ局、そしてリオやサンパウロのテレビ局でも演奏するようになりました。
1935年自作の最初のレコード「トカドール・デ・ヴィオロン」(ペドロ・カエターノとの共作、歌アウグスト・カリェイロス)が録音されました。この時期にテノールギターに持ち替えたようです。
二人の最初のヒット曲「運命のいたずら」 “Caprichos do destino”(ペドロ共作、歌オルランド・シルヴァ)は1938年に発表されました。
1939年には「セイ・ケ・エ・コヴァルジア」(アタウルフォ共作、歌カルロス・ガリャルド)、1944年「エウ・ブリンコ」(ペドロ共作、歌フランシスコ・アルヴェス)、1952年「ノーヴァ・イルゾン」(ペドロ共作、歌ルシオ・アルヴェス)。
彼のレジオナル(Claudionor e seu Regional)は40年代から50年代が全盛期で、ベネジット・ラセルダのバンドと人気を二分し、70年代初め時代の変化とともにレジオナルの仕事が消滅するまで400曲以上録音ししています。
また最大のパートナー、ペドロ・カエターノとの競作は約300曲を数えます。
出生地は何処?
クラウジオノールは1910年、とある山間部にあるパライブナという地名を持つ場所で生まれました。
パライブナ(PARAHYBUNA)とはツピ語でPARA(水)、HYB(川)、UNA(黒)、黒い川と言う意味です。
さて、ここからが問題です。
カーザ・デ・ショーロのサイトでは出生地はサンパウロ州パライブナと表記されていて、クラボ・アルヴィン辞書ではミナス・ジェライス州パライブナと記されています。
さて、どちらなのでしょうか?
確かにどちらの州にもパライブナという地名があります。
一体、どちらななのか?
さあ、調べるぞ!
(1)サンパウロ州パライブナ
サンパウロ市の約100キロ西にあるサン・ジョゼ・ドス・カンポス市の南、クーニャの山奥を水源としたパライブナ川とパラチニンガ川が合流し、ダムが造られています。このダムの近くに人口18000人余りのパライブナ市があります。
(2)川の流れ
上記ダムから下流は名前を変え南パライバ川となります。
この川はサン・ジョゼ・ドス・カンポスをかすめデュットラ街道と並行し北東へ流れます。
途中ミナス・ジェライス州とリオ・デ・ジャネイロの州境を下り、丁度リオ・デ・ジャネイロ市の真北辺りでミナス側から流れて来た支流パライブナ川(上流のパライブナ川とは違う川!)と合流します。
南パライバ川はどんどん北東へ、最後はリオデジャネイロ州の北の町サン・ジョアン・デ・バラでようやく海にでます。全長1137キロ(ちなみに信濃川は367キロ)、長大です。
とはいえパラナ川(4880km)、サンフランシスコ川(2830km)、アマゾン川(6992km)もありますし。
一方支流のパライブナ川は全長170キロで川沿いに敷設されたブラジル中央鉄道はリオーベロオリゾンテ間の重要な拠点を縫っています。
(3)ブラジル中央鉄道
開通は1854年、当時はまだ王制で「ドンペドロ二世鉄道」という名称でリオデジャネイロからベロオリゾンテを繋ぐ計画で始まりました。
最初はリオ州内のジャエリ市、1864年に同バラ・ド・ピライ、1875年にミナスジェライス州のジュイス・デ・フォーラまで完成しました。
ベロオリゾンテまでは1885年に到達(今は廃線)し、それ以降もサンフランシスコ川に沿って延長されます。
(4)ミナス州パライブナ
鉄道は州堺で両河川(南パライバ川とパライブナ川)の合流点のトレス・リオスからパライブナ川沿いに遡ります。このパライブナ川沿いに1874年に開業した「パライブナ駅」の駅舎跡が残っています。(現シマン・ペレイラ市内)グーグル・マップでパライブナ駅を見ると近隣に殆ど人家は見当たりません。(駅舎前に橋があり、対岸に小さな町があるのですが、そこはリオデジャネイロ州です)
(5)出生地
つまり、カーザ・ド・ショーロ記載のパライブナとはサンパウロ州南パライバ川上流の支流パライブナ川近くのパライブナ町を指し、クラボ・アルヴィンの方はミナスジェライス州南パライバ川中流の支流パライブナ川のパライブナ駅近辺を言っているのではないかと。
サンパウロの方は人が今でも住んでいる田舎町で、ミナスのパライブナ駅は廃墟ですが昔はリオに直結する鉄道の拠点(駅舎近くに登記所に使われた大きな建物、これも廃墟、が残っています)でした。
どっちなのでしょう?
自分の中での結論は、南パライバ川の支流パライブナ川の近くということは…
結局「分からない」です。
後記:僕のラジオ番組で彼の曲を流した後に京都在住のショーロ愛好家の同志より、ミナスジェライス州のトレス・リオ市でクラウジオノルの生誕記念行事があったとの記事の提供があり、それを読みますとどうやらミナス生誕が正解のようです。
Oct.05 2021
参考:MPB CIFRANTIGA, O site de Brasil Cultura
Casa de Choro Claudionor Cruz
Dicionario Musica Popular Brasileira, Cravo Albim, Claudionor Cruz
Brasil Cultura, Claudionor Cruz
Ataulfo / Cifrantiga
Dicionario da Musica popular Brasireira, Albim Cravo, Almirante
Casa del Vecchio Violao Tenor
Memória do Violão Tenor Brasileiro, Claudionor Cruz – Dengozinho
A estação de Paraibuna