寺前浩之のエッセイ

目次

寺前浩之


執筆者紹介

てらまえ ひろゆき:大阪府出身

12歳よりギターを始め、大学在学中にジャズと音楽理論を学ぶ。
上京後、クラシックギターの道へ。
92年スペインに渡りホセ・ルイス・ゴンサレスのもとで学びつつ
各地でコンサートを行なう。
96年帰国後、ブラジル音楽を中心に演奏活動を展開。
05年以降はバンドリン奏者として活動中。
近年はヴィオロン・テノール(テナーギター)の演奏にも力を入れている。




<文 寺前浩之>


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(1) 複弦楽器の味わい



バンドリンは8弦の楽器で、二本ずつ4組、低いほうからソレラミという調弦ですが、たまに「なぜ同じ音の弦が二本ずつあるのですか?」という質問を受ける事があります。


これはこの楽器の本質を突いた問いかけなので少し考えてみましょう。

まず一つは音量の話。

一本より二本、同時に弾いた方が単純に大きな音がする事はすぐ理解できると思います。
バンドリンは音の小さな楽器です。

生音でパンデイロや管楽器と演奏する時に音量を稼ぐためというのが最初の答え。
「じゃあ、三本にすればもっと」と考えてしまいそうですが、実際に他の南米諸国には1コース3弦の楽器も存在します。

ジャコー・ド・バンドリン
ゼ・メネゼス

そして二つめ。

この楽器の特徴を語る時によく言われる、二本の弦の微妙な音程のずれによるコーラス効果です。

奏者はもちろんチューナーや音叉を使って同じ周波数の音になるように調弦するのですが、完璧なユニゾンにする事は物理的に無理です。

もし偶然に完璧な調弦ができたとしても、弾いているうちに狂ってくる事もよくありますし、大体これくらいかなという所で演奏に臨むのですね。

矛盾するようですがバンドリンの膨らみのある音色は、完璧な調弦を目指しつつもどうしても起きてしまうピッチのずれによって偶発的に生まれてくるとも言えます。

そしてこの「これくらいかな」という許容範囲がプレイヤーの個性の一部になっているように思います。

画像の説明

厳格なジャコー・ド・バンドリンの調弦は時に複弦に聞こえないくらい完璧で揺らぎが少ないですし、逆にゼ・メネゼスなどはわざとかと思うくらいずれている時があって、それがこの人特有の浮遊感のあるフレージングと相まって味わい深いものになっています。

ルネサンス時代のリュートに始まって世界には多くの複弦楽器がありますが、単音でありながら実は二つの音が同時に鳴っている事を意識して聴いてみると、色んなバンドリン奏者の新たな魅力を発見できるかもしれません。

エッセイ・バンドリン

Apr 18 2012

注:記事内の写真はインターネット上、ダウンロードできるものを添付しました。