連載 エッセイ ヴィラ=ロボス

<文 宇野智子>


伊藤昇 (1903-1993)




(10) 昭和17年のヴィラ=ロボス 【後編】




「昭和17年のヴィラ=ロボス」の後編です。前編はこちらからお読み頂けます。

第一回でご紹介した伊藤昇氏による「現代世界音楽家叢書 9」(日本で最初にヴィラ=ロボスを取り上げた書籍)では誕生年に誤りがみられるのに対し、柿沼太郎氏の「現代作曲家群像」では1886年3月5日と日付まで正確に記されています。ただし、名前の読みは「エクトール・ヴィイア=ロボス」。
現在一般的に使われている書き方とは異なりますが、あるいは原書に忠実な読み方だったのかもしれません。
というのも、ヴィラ=ロボスのファースト・ネームは「Heitor」と綴るのが正解ですが、1920年代当時のフランスのプログラムや広告には「Hector」と書かれているものも結構あります。まぁ大きく間違えているわけではないので、きっとヴィラ=ロボス本人は大して気にしなかったことでしょうが…。
この本では、最初の妻ギマラエス(Guimarães)も「グィマース」と表記されています。日本人にとって馴染みの薄い綴りで、カナをあてるのは難しかったことでしょう。

「現代世界音楽家叢書 9」や「現代作曲家群像」で私たち研究者にとって残念に思うことがあるとしたら、それは人物や作品の原語表記が付されていないことです。
昭和9年に出版された伊藤氏の著書にはまだ原語の綴りのあるものも含まれていますがすべてではありません。(最近、この問題の解明を個人的にせっせと取り組んでいます。)
「現代作曲家群像」掲載のヴィラ=ロボスの作品は邦題だけなので、何の曲なのか現在では分からないものもあります。(昭和17年当時、商業出版物での「敵性語」使用は不可能だったのかもしれません。) 
この書を元に対応表を作ってみましたが、特定できないものも残ってしまいました。
戦時中にブラジルの裏側の国で出版されたこうした『遠い』書物から、意外にもヴィラ=ロボスの失われた作品が見つかったり…しないものでしょうか…!?

また、「現代作曲家群像」では、その典拠としている<ダヴィッド・エウェンの「今日の作曲家」>についての言及がありません。このエッセイの読者からエウェンらしき人物の情報をいただきましたが、まだ確定的なことは言えないので、この人物と原書の特定は今後の課題としたいと思います。




【現代作曲家群像 掲載作品 対応表】

原文(出現順)/邦題、原題及び作曲年(推定) ※備考

《アルマ・ド・ブラジル》/《ブラジルの魂 ALMA BRASILEIRA》1925年 
※「ド」は誤りとおもわれる

《イストリエタス》/《物語 HISTORIETAS(HISTORIETTES)》1920年 
※歌とピアノのための作品

《ベーベの家族》/《赤ちゃんの一族 PROLE DO BEBÊ》1918年/1921年 
※第1集(1918年)、第2集(1921年)のどちらを示しているかは不明。

《フエミナ》/? 
※「歌劇」とあるが、ヴィラ=ロボスの作品目録には掲載されておらず詳細不明。

《基督》/《イエス・キリスト JESUS》1918年 
※未出版のオペラ作品

《イザート》/《イザート IZAHT》1912 - 1918年 
※オペラ

《土産の傳説》/《カボクロの伝説 A LENDA DO CABOCLO》1920年 
※ピアノのための作品

《パウリスタ組曲》/? 
※誰かの作品が取り違えられたのかと思ったが、ヴィラ=ロボスの弟子か
秘書のような存在だったクラウディオ・サントロ(Claudio Santoro)の
《パウリスターナ》組曲は、1952-1953年の作曲。
出版年を考慮すると、この作品ではなさそうだ。

《ブラジルの謝肉祭》/《ブラジルの子どもの謝肉祭 CARNAVAL DASCRIANÇAS》1919-1920年 
※ピアノのための作品

《アフリカ舞曲》/《アフリカ的性格舞曲 DANÇAS CARACTERÍSTICASAFRICANAS》914-1915年 
※ピアノのための作品

《金のセンタオル》/?

《マルマ・ド・ブラジル》/? 
※「合唱曲」と記されているが…。

《五重奏曲》/? 
※「フルート、サクソフォン、チェレスタ、ハープによる」とあるが、
ヴィラ=ロボスの作品目録中にこの楽器編成による《五重奏曲》は見当たらない。

《八重奏曲》/? 
※《七重奏 SETTIMINO(ショーロス第7番 CHOROS No.7)》ではないのか?

《神秘な○重奏曲》/《神秘的六重奏曲 Sexteto Mistico》1917年 
※○の部分は原本がかすれて読み取れないが、おそらくこの作品だと思われる。




参考文献「現代作曲家群像」 
発行年:昭和17年
著者:柿沼太郎
発行所:新興音樂出版社(東京)


2012 12 25

Villa-Lobos

編者注:記事内の写真はインターネットよりダウンロードしました。