連載 エッセイ ヴィラ=ロボス

<文 宇野智子>


13. ヴィラ=ロボス記念館(Museu Villa-Lobos)


ヴィラ=ロボス記念館




ヨーロッパでは、モーツァルトやドビュッシーなど著名な作曲家の生家を記念館として残している国が多く、そうした施設は人気の観光スポットとなっています。
作曲家本人の身になると、幼年時代を過ごした家を後世の人々にじろじろ見られるのはいかがなものか…とは思いますが、(故人とはいえ)著名人にプライバシーがないのは仕方ないことかも知れません。

世界的に偉大な(?)作曲家の一人であるヴィラ=ロボスにも勿論、記念館があります。
彼の死後、妻のアルミンダは己の使命として記念館の設立に熱心に取り組んだということで、建物にはその献身を讃えるプレートが掲げられています。
1960年以降の数年間はブラジル文化省内の小部屋を使用していたようですが、1986年に現在の場所で機能し始めました。節目の年ごとに大きな演奏会やイベントを催し、設立当初から現在までヴィラ=ロボスの音楽の発信地となっています。

瀟酒な邸宅を利用したこの記念館に展示されているのは、タキシードと勲章、そして胸像等々…。
正直言って、あまり観光スポットとしての見所はありませんが、奥の部屋がアーカイブになっており、ヴィラ=ロボスの自筆譜や出版譜、彼について書かれた批評や記事、プログラムなどが数多く収められています。
これらの収蔵物は門外不出ということもなく、コピー代を払えば複写を受け取ることができます。また、記念館が刊行した作品目録には出版データも記されています。

音楽家の生家や故郷に記念館を建てる意味はここにあると、私は考えています。
後世の研究者がどれほど熱心で勤勉であっても、一人の作曲家についての資料を個人で全て管理することは限りなく不可能に近いでしょう。
ヴィラ=ロボスのように沢山の作品を書き、メディアへの露出を好んだ人間に関する資料は膨大です。数が多ければ多いほど散逸し、不注意のうちに失われる可能性も高くなります。
そういった損失を最小限に抑えるために、資料を集める拠点があれば便利で安心です。同時に、専門家が集まる場所ができれば、作品も末永く、広範囲で愛されることでしょう。

蛇足ですが、「日本は楽譜や資料の複写を入手しづらい国だ」とある研究者に聞いたことがあります。
他の国では手紙で問い合わせてもアーカイブの責任者が「ある、ない、複写可・不可」についてほとんどの財団、機関が回答をくれるのに対し、日本では所蔵している資料の所在を明らかにしないばかりか、正統な理由なく複写不可にする機関も少なくないそうです。
特に個人蔵の本などは在処を突き止めて丁寧にお願いをしても、「そんな本は持っていない」の一点張りでなす術がないこともあるとか、ないとか…。
 
私も、ニューヨーク・フィル・ハーモニックの所蔵庫にヴィラ=ロボス自らが注釈を入れた楽譜が保管されているのではないか、と思い立って手紙を送ったことがあります。
残念ながら楽譜は残っていないとの返事でしたが、当時のプログラムでヴィラ=ロボスの名前が載ったものならあるから、と数回分のプログラムノートのコピーを送ってくれました。ニューヨーク・フィルはデジタル・アーカイブを有していて、ウェブサイトで資料を探せる点も便利です。一方、日本の機関に問い合わせて複写の許可がもらえなかった…という経験もあり、ケースバイケースではありますが、やはり日本は閉鎖的な面があるのかもしれません。

ブラジルではコピー譜を使う機会が多くあります。多くの人が言うには、国が広大過ぎて流通が難しく、出版部数が日本より少ないせいではないかとのことです。
町や大学に「XEROX(シェロックス)」というコピー屋さんがあり、そこに持ち込むと必要なページを必要な枚数コピーしてくれます。
一度だけ利用したことがありますが、言葉が通じなくても目的のページをコピーしてもらうことができました。
ヴィラ=ロボス記念館は、国外からも複写の申し込みができますが、料金の支払い方が少し複雑です(ご興味がおありの方はfacebookなどを通じてメッセージを下さいね~)。




ヴィラ=ロボスのウェブサイト(ポルトガル語/英語)
ヴィラ=ロボス記念館(Museu Villa-Lobos)
Rua Sorocaba, 200 - Botafogo, Rio de Janeiro, RJ. CEP: 22271-110, Brasil




2013 04 10

Villa-Lobos

編者注:記事内の写真は著者より提供を受けました。