連載 エッセイ ヴィラ=ロボス

<文 宇野智子>


リオデジャネイロ旅行記

EPMの音楽家たち



連載エッセイ ヴィラ=ロボス 番外編
「リオデジャネイロ旅行記」

プロローグ
1. 2011年夏、ストライキ
2. EPMの音楽家たち (前編)
3. EPMの音楽家たち (後編)
4. 2013年春、ワークショップ
5. リオの街をそぞろ歩いて
エピローグ


3. EPMの音楽家たち(前編)



EPMと言えばショーロ界では超がつくほど有名な機関ですし、このサイトで「ポルタチル音楽学校」というルシアーナ・ハベーロの素敵なエッセイも読めるので、クドクド説明するまでもない気がしますが、簡単に…。

EPMはショーロの継承とさらなる発展に大きな役割を担っている団体です。
楽器のレッスンに加えて和声学や作曲、豊富な音源から学ぶショーロの歴史といった講座も充実していて、ショーロのバックグランドや骨組みをきちんと理解しながら演奏法を修得することができるのです。
講師陣は皆、現役で活躍するミュージシャンですから、受講者はレッスンだけでなく、講師のライブやホーダを通してショーロのあるべき姿を学んでいきます。
まさにショーロの全てを網羅した至れり尽くせりな機関と言えるでしょう。

授業は毎週土曜日の午前中、ウルカにあるリオデジャネイロ連邦大学の校舎を借りて行われています。
2011年に訪れた時は、フルート奏者の熊本尚美さんの案内で各楽器のレッスン、授業と合奏を二週に亘って見学させてもらいました。実技のクラスは初心者からかなりの熟練者までレベル別に分かれていますが、各クラスの中でも個々の実力には差があるようでした。
課外授業として相互単位のようなものが認められているらしく、音大生の姿もちらほら。かと思えば楽器を始めてまだ日が浅いという人もいて、グループレッスンをするのはなかなか大変そうです。けれども、やる気がみなぎっている点ではどの受講者も同じで、見学したクラスはどこも熱気に満ちていました。
むしろ、日本のようにレベルは(どんぐりの背比べで)揃っていても授業態度が受身で、質問を投げかけてもシ~ン…という方が講師にとっては空しく感じられるかも知れません

EPMの授業を見学して、尚美さんが常々「日本はワークショップを受ける時も、講師の真正面に座る、ブラジルは車座になる」と仰っていたことを実感しました。
予め椅子が並べられている所は別として、リオでは人が多く集まれば自然と車座になって、講師やリーダーだけでなく、仲間の様子もうかがいながら演奏をしたり、話を聞いたりしているようです。
実際、ツアー中のワークショップでも車座で合奏し、天然のサラウンド(サラウンドは音声の再生方法をさすので、変な表現ではありますが)で旋律、リズムが混ざり合っていく空間の濃密さに、あやうく音酔いしそうなほどでした。



2013年のツアーでは、実際にレッスンにも参加させてもらいました。

前列右から二人目が著者

ツアーのメンバーはそれぞれパンデイロ、カヴァキーニョ、フルートのクラスに分かれて授業を受けました。
私はピアノのクラスに行って、ショーロの伴奏の仕方を教えてもらいました。通常の講師クリストヴァォン・バストス(Cristóvão Bastos)はお休みということで、おそらく私と同世代くらいのバストスのお弟子さんという方がレッスンしてくれました。ポルトガル語の意思疎通も覚束ず、先生も困ったことでしょう。
「え~、言葉が通じない!? いや、でも音楽の用語ならとりあえず通じるから…何か一つでもこの日本人に覚えて帰ってもらおう」と思い直して対応してくれたことに感謝。英語とポルトガル語と音楽用語のちゃんぽん、お互い一所懸命でした。

バストスの作品が好きなので、本人に会えなかったことは残念でしたが、いずれまた良い機会が巡ってくるのかな~と思っています。
こうした「運」というか巡り合わせのようなものも、旅の醍醐味と言えるでしょう。いくつか心残りがあるくらいでちょうどいいのかも知れません。

EPMの活動において、何より圧倒されたのはクラスが終わった後のバンダォン(大合奏)です。
時には100人を超える受講生が屋外の広場に集まり、一曲を演奏します。これを初めて見た時、月並な言葉ですが本当に心の底から感動しました。
そこにいる受講者、講師、見学者の全員で、音楽を作り上げる喜びを共有していていることが伝わってきました。
それは押しつけられたものでも教えられたものでもなく、自然発生的なものなのだろうと思います。中高の吹奏楽部の独特な体育会系的雰囲気についていけず、ブラスバンドから離れてしまった私にとっては、心の扉が開くような貴重な体験でした。

EPMの音楽家たち

大合奏に参加し、自分の周囲で演奏する上手な人の演奏を聴くことで、ショーロ・ビギナーもどんどん上達していくそうです。
聴く耳を養うことでショーロのあるべき姿や、空気感さえも受け継がれていくのでしょう。
そうした方法でショーロを継承していくことこそ、ルシアーナ・ハベーロやマウリシオ・カヒーリョがEPMを立ち上げた目的でもあるのです(この辺りは尚美さんの通訳で聞いたお話!)。

写真は2011、2013年のものが混ざっていますが、この広場の写真と動画をご覧になれば、屋外で演奏する心地よさを想像していただけると思います。



次回はEPMの音楽家たち(後編)をお届けします。




2013 8 2

編者注:記事内の写真は著者より提供を受けました。