連載 エッセイ ヴィラ=ロボス



<文 宇野智子>


(3) 「あなたに捧ぐ」 ― ヴィラ=ロボスの献呈曲について




Villa-Lobos, Arminda Neves d'Almeida (Mindinha)





ヴィラ=ロボスの数多くの作品のうち、約70曲は献呈された曲です。
ほとんどは妻であるアルミンダ・ネーヴェス(愛称ミンジーニャ)に捧げた曲ですが、演奏家や友人、パトロンに献呈した作品も多く残されています。

(タイトルに「」マークを付したものは、ユーチューブから引用した視聴データがあります。)



《12のエチュード》、《ギターと小オーケストラのためのコンチェルト》 →アンドレ・セゴビア

《ショーロス第1番》→エルネスト・ナザレー

《ショーロス11番》、《野性の詩》→アルトゥール・ルービンシュタイン



上記の比較的有名な献呈曲以外にも、様々な著名人にヴィラ=ロボスは曲を捧げています。そのいくつかを、人物紹介とともに挙げてみましょう。

Mário de Andrade

《ショーロス第2番》→マリオ・デ・アンドラーデ(Mário de Andrade, 1893-1945)

アンドラーデは、ブラジルにおける芸術の革命的な動きを率いた文化人でした。
音楽史の教員を志して音楽大学で学んだ経歴をもち、詩人、小説家としてのみならず、文芸や音楽の評論家としてもマルチに活躍した、時代の寵児ともいえる人物です。


《シンフォニア第11番》、《チェロとオーケストラのためのファンタジア》→セルゲイ・クーセヴィツキー(Serge Koussevizky, 1874-1951)

クーセヴィツキーは優れたコントラバス奏者、指揮者であり、わずかながら小品の作曲もしています。セゴビアと同じく、同時代の音楽の発展に貢献しました。
ボストン交響楽団が世界的なオーケストラに成長したのも、常任指揮者として長年活動したクーセヴィツキーの功績と考えられています。


Edgard Roquette Pinto

《三つのインディオの詩》→エドゥガルド・ホケッチ・ピント(Edgard Roquette Pinto, 1884-1954)

ピントは人類学者ですが、ヴィラ=ロボスと浅からぬ縁をもっています。
1907-1908年にカンジド・ロンドン(Cândido Mariano da Silva Rondon, 1865-1958)将軍が統率したマト・グロッソの探索隊に参加しています。これにはヴィラ=ロボスも一時加わっていたのではないかという説もあり、事実ならばこの時すでに彼らは相見えていたかもしれません。
しかし直接的な関わりはその後です。ヴィラ=ロボスが音楽を担当した映画「ブラジル発見」(←"O Descobrimento do Brasil" 監督Humberto Mauro 製作1936)は、国立の教育映画機関で制作されましたが、この機関を立ち上げ、運営していたのがピントなのです。
ヴィラ=ロボスが作曲家となってからの交流は、おそらくこの頃からだろうと考えられます。


 

Magda Tagliaferro

《モモプレコース》→マグダ・タリアフェロ(Magda Tagliaferro, 1893-1986)

タリアフェロはブラジル出身のピアニストですが、フランスで活躍しました。フォーレにその音楽性を見込まれたことでも有名です。
この作品は1930年2月のパリで、タリアフェロによって初演されました。

(この頃、ヴィラ=ロボスはパリでの生活費をブラジルの名士カルロスとアルナルド・グインル兄弟に頼りっぱなしで近況報告もせずにいた為に、その援助がまさに打ち切られる瀬戸際だったようです・・・!)
 

とにかく曲を書き上げるのが早かったというヴィラ=ロボスの自筆譜は、あまりきれいなものではありません。
音符が読めない人が見ても、これは急いで書いたな、と推察できるような楽譜なのですが、曲のタイトルと献呈者名は結構しっかりと書かれているものが多いように感じます。
もちろん、献呈することの裏に媚や社交など、色々な思惑があったことは間違いありません。
しかし、パトロンや力のある音楽家に取り入るという政治的な意図しかなかったと言い切るのは正しくないでしょう。
自分の作品を相手の目の前に誇らしげに広げてみせるような屈託のない純真さが、(曲を捧げるという行為のなかに)見え隠れしているように、私には思えます。

自筆譜のお話はもう少しまとめて、形になったら書かせていただきたいと思います。



参考演奏(YouTube)
(下線のある部分をクリックしてください)

《Rudemoêma》
(野性の詩)
パート1
パート2


《Concerto para Violão e Pequena Orquestra》
(ギターと小オーケストラのためのコンチェルト)
パート1
パート2


《Fantasia para Violoncelo e Orquestra》
(チェロとオーケストラのためのファンタジア)
パート1
(最初が少し切れています)
パート2


《Momoprecoce》
(モモプレコース)
パート1
(演奏は1’48頃から始まります)
パート2
パート3

2012 06 04

Villa-Lobos

注:記事内の写真はインターネット上、ダウンロードできるものを添付しました。