片山叔美のエッセイ

私のサウダージ、アデミルジ・フォンセーカ

<文:片山叔美>




(16) EU CANTO CHOROS(…?)

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「ブラジルでの録音秘話」の章でも触れたことだが

2004年にブラジルで4曲だけ録音をした。
このために私はけっこう大変な宿題を抱え込むことになった。

pandeiro

そもそもブラジルに行く前は録音するなんてこと、頭の隅っこにもなかった。
初めての海外旅行!とにかくアデミルジに会う!こと以外考えていなかったのだ。
現地では、アデミルジと思いもよらぬ親密な交流が始まり、彼女のファンの方がアパート丸々提供してくれたお陰でホテル代も浮いて、滞在期間が終わる頃になっても、当初思っていたよりは所持金が残っていた…という経緯は前に書いた通りである。

そんな折しも、アデミルジやその家族、他の人たちにも、録音はしていった方がいい、と勧められた。
ならばビデオもちゃんと撮るべきだ、と言ったのはクリップスタジオを経営するアデミルジの孫の夫君。
こんな次第で実現した4曲だけの録音。残念ながらCDアルバム丸ごとを録るにはさすがに時間もお金も足りなかったのだ。

帰国後、この「ブラジル録音が4曲」というのが悩みの種となった。
アルバムを作るには曲がもっと必要。
日本での録音は、なかなかうまく進まなかった。

画像の説明

気候の違いによって生じる楽器や録音自体の音質の差、さらにブラジル音楽を熟知する現地エンジニアの録音による音質の差。
ブラジル人の、それも熟練組のおじいさんミュージシャンたちと録った4曲と合わせても違和感の無い1枚のCDにするということはかなりの難題で、参加してくれた 日本のミュージシャンも大変だったと思う。

それでも多くの人の協力を得て(ブラジルに住むエンジニアに1日かけてインターネット経由で録音データを送ってもらったり)、やっとのことで2008年の自主リリースに漕ぎつけた。

さて、そのCDのタイトルを決める時のこと。
シンプルでわかりやすいのが何より、ということで「EU CANTO CHORO」というタイトルが頭に浮かんだ。
「私はショーロを歌う」
まったく、そのままである。
ショーロをインストルメンタルだけだと思っている人や、ショーロはアデミルジしか歌わないものと思っている人に向けても、本当にぴったりだと思った。

早速、このタイトルについて、アデミルジに電話でお伺いを立てた。

画像の説明

「『EU CANTO CHORO』にしようと思うんだけど、どう思う!?」

「そうねえ……。『EU CANTO CHOROS』にしなさいよ」

「え? 複数形? なら『EU CANTO OS SHOROS』では???」

「いいえ、『EU CNATO CHOROS』」

「ふ~ん…」

この時、ちゃんと追究すれば良かったのだけど、電話だし、言葉の細かいニュアンスも理解する自信がなかった。
とにかく、アデミルジがそう言ったのだから悩むこともないわと、タイトルは「EU CANTO CHOROS」に決定。

以来、このCDについて「なんで冠詞のOSは付かないの?」「なんで複数形のCHOROSなの?」などとたまに訊かれるのだが、「私、知らな~い」というテキトーさで通してきた(!)

アデミルジが亡くなって1年半が経とうとしている頃…
群馬在住のブラジル人で、英語とポルトガル語の先生をしている女性と話していた時に、ふと思い出して尋ねてみた。

「私のCDのタイトル、『EU(私) CANTO(歌う) CHOROS(ショーロ)』なんだけど、どうしてCHOROS? アデミルジの言うとおりにしたんだけど」

「ああ、これね~! そう、ちゃんと理由があるわよ!ショーロは1曲だけでない、という意味もあるし、アデミルジの周囲でショーロという音楽の全体を指す時はCHOROSと言っていたのかもしれない」
「CHOROの普通の意味は“泣くこと”でしょ。ブラジル人が見たら、あなたは日本人ということもあり、“私は泣くことを表現して歌う”という意味にとるかもしれない」
「ところが、CHOROSと複数形にすることで、これは“泣くこと”ではなく、音楽のCHORO(ブラジルでは一般的にはショーロのことをChorinho<ショリーニョ>と言う)なのかな、って興味を引くことになるから、わざとアデミルジは『EU CANTO CHOROS』にしたのだと思うわ。もしかしたらもっと色々な意味を込めているのかもね。ポルトガル語って、たくさん意味があるから」

「そうかぁ… やっぱりテキトーじゃなかったのかぁ…」

もうアデミルジ本人に尋ねることはできなくなってしまったけれど、きっと深い意図があったに違いない。

Demilde Fonseca

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3月4日はアデミルジの93回目の誕生日でした。
そしてあまり意識したくない命日も3月末。

一昨年の11月から始まったこのエッセイ、書き残したことといえば、公開できないネタばかりになってきました(笑)。
ほんとはここからが面白いのですけどねぇ!
書いてしまったら天からお叱りを受けそうなので、あともう一話をもって、ひとまず終了しようと思います。

最終回、お楽しみに!


2014 03 14
写真は著者より