片山叔美のエッセイ

私のサウダージ、アデミルジ・フォンセーカ




<文:片山叔美>




片山叔美



(6) 衣装について~ややアナクロ(?)



たまに「ショーロ歌手には(正装の)衣装ってあるのですか?」と訊かれることがある。
まあ、ないと言えばないのだが、「特にないんですよ」と答えるのもつまらない。
というわけで、色々と自分で考えるようになった。

ショーロはリオデジャネイロ、即ち都会で生まれた音楽で、150年以上の歴史をもつ。
ショーロを演奏するミュージシャンの中でも、お洒落な人なら、その時々の流行のファッションを身につけていたに違いない。
アデミルジの昔の写真をみると、やはり当時の流行に合った、現在の感覚では「レトロ」な部類の服装だ。

ショーロのリアルタイムな時代背景は彼女が歌った「Doce Melodia」の歌詞にもみることができる。
ある娘が朝帰りをしたところを牛乳配達員に見つかって含み笑いをされてしまうという内容だが、お相手の男性はキャデラックに乗り、クラクションを鳴らして家の前へ迎えにきたりするのだ。
1950年代初頭に書かれたと思われる歌詞だが、いかにも「その時代」ならではのシチュエーションである。
(Doce Melodia - 歌詞 Luiz Antonioはここをクリック )

アデミルジはかなりお洒落が好きな人だった。
それに輪をかけて整理整頓が大好きな人だった。
彼女の部屋で幾度となくクローゼットやタンスの中身を見る機会があったが、実にきっちりと整理されていて、彼女自身、どこに何が入っているか、だいたい見当が付いてたようだ。

まず、アデミルジが一番に好きな色は白。
そして晩年に好んで着ていた衣装は、極端に言ってしまうとジュディ・オングさんが「魅せられて」を歌った時の、両腕を広げると蝶々みたいになる、あのデザインである。
ジュディ・オングさんより控えめではあるが、とにかく袖が大きく広がっている、布のたるみを活かしたデザインが好きで、普段着でも何となく袖がひらひらした服を着ていることが多かった。
アデミルジが歌手としても成熟期にあった1960~70年代の頃、ブラジルだけでなく、ショービズ界全体でそのようなスタイルが流行していたようだ。
(そういえば美空ひばりさんが似たようなドレスで歌っているその頃の映像を見たことがある。)
ジュディ・オングさんの「魅せられて」のリリースは1979年。
あれはいわば、ひらひら系衣装の完成型だったのではないか!?

アデミルジ

ところで最近、とある女性歌手をテレビで見るたび、アデミルジのことを思い出してしまう。

八代亜紀さんだ。

八代さんの着ているドレスの生地、袖の広がり具合、キラキラと上品に光る感じ…アデミルジなら絶対、気に入るに違いない。
こういうファッションはステージ衣装としては定番かも知れないが、決して今の流行ではない。
が、エレガントさを醸し出すにはもってこいのスタイルだと私は思う。八代さんもきっと色々なデザインを試した末に、あえて「レトロ」な雰囲気のドレスを身につけるようになったのではないかと勝手に想像している。
アデミルジも、そんな70年代スタイルの衣装が大好きで、最後まで愛用し続けたのだと思うから。

「最近、自分の好きなデザインの服が売ってないの」
と、よくこぼしていた。

(はい、それはもう流行ではないからなのです、アデミルジ……。)

…といったあれこれを踏まえて、自分なりにショーロ歌手の正装というものを考えてみた。
「とにかく白でエレガントに」
というのが、私なりの冒頭の質問に対する回答である。

今日も、自ら白い衣装をまとう時、私は特別に身が引き締まる思いがするのだ。




<新作のおまけ>


2013 04 18

注:記事内の写真は著者から提供されました。
イメージ動画は著者が作成したものです。