片山叔美のエッセイ

私のサウダージ、アデミルジ・フォンセーカ




<文:片山叔美>




タピオカ



(7) 似たもの同士~二人の好物




前章の「衣装について~ややアナクロ(?)」に付け加えたいことが浮上した。
後日、ふと夜中につけたテレビに、私も好きな或るお方が出演中。よくよく見ると、前章で語らせて頂いた、まさにアデミルジ好みのヒラヒラ系ドレスをお召しになっている。そういえば、彼(彼女?)はいつもこういう衣装かも。でもイメージが(大きさが)違い過ぎて、その時まで気付かなかった。

その方の名はマツコ・デラックスさん!(興味のある方は画像検索を)
あー、言えてすっきり。

さて、今回のお話。

アデミルジは常々「私のレパートリーを歌うのよ!(私 のレパートリーを歌うということは、早口のショーロも歌えるということなのよ。)」と言って私、片山を紹介してくれていたが、それだけでなく、「何でも私に似ているの。好きな食べ物も同じ、好きな衣装も、背の高さも、服や靴のサイズまで、とにかく似ている所だらけ」と言い添えた。
実際、サイズが同じだった為、彼女から服飾関係のものを色々と頂いたのは私にとってラッキーなことだったと思う。
指輪のサイズ(若い頃のだけど)さえぴったりだったのだ。

「似たもの同士」の私たちだったが、食べ物については少し選ぶものが違った。
というのも彼女は健康に配慮して、肉は脂身を避け、揚げ物はあまり食べないようにしていたから。

「ほんとは鶏の皮のところが美味しいけど、脂がすごいから私は食べてはダメ、残念…。」
「ああ、Torrezumo(豚の皮の部分の脂身をフライにしたもの)は実にすばらしい…!でも、食べてはいけない!」

などと言いながら我慢して、私とまるっきり同じものを食べることはしなかった。しかし実のところ、好物はほぼ一緒だったのだ。

アデミルジはブラジルの北部、ナタールの出身なのだが、この地方に「タピオカ」と呼ばれる食べ物がある。
日本でタピオカというと一般にタピオカパールをさすようだが、そのタピオカパールの原料であるキャッサバ芋のデンプンから作った、パンケーキもしくはクレープに似た食べ物がブラジルの「タピオカ」である。
その生地の間にバターを塗ったり、ココナッツの実を削って細かくしたココナッツファイン、干し肉やハム、チーズなどを挟んだり、もしくはコンデンスミルクを塗って甘くしたりとバリエーションは色々。
モチモチした食感と、何とも言えない味わいが私は大好きだった。
それを知ったアデミルジは我が意を得たりという気分だったろう。
彼女もこの「タピオカ」が大好物だったし、何より故郷の料理であったから。

いつも夕方近くになると、アデミルジの住まいから程近い商店街の通りで、一人の女性がガスコンロとフライパンを持ち出し、タピオカを作って売り始める。
アデミルジと私の一番のお気に入りはココナッツ入りのタピオカ。
二人でショッピングの帰りに買うこともあれば、私がアデミルジのために買いに行ったりすることもあった。

そこのタピオカを食べるたび、アデミルジから、故郷のタピオカはまた一味違うと聞かされた。
こういう乾いたものじゃなく、無加糖のさらりとしたココナッツミルクに浸かっていて、もっともっと美味しいのだと。

ある日。
私の帰国の日が近づいてきたからだろうか、アデミルジが故郷で食べていたタピオカを自分で作る、と言い出したのである。
ヨシミは私と好きなものが同じだからきっと気に入るはず!ということで…。

普段、アデミルジは滅多に料理をしなかった。
台所のことはほとんど同居の女性、コンスエロに任されていた。
(大丈夫かな…アデミルジ。)

リオの商店街の隅っこで作っている様子を見ている限り、レシピは簡単そうだった。
キャッサバ芋のデンプン(粉)に水を少量加え(水を入れても粉の状態)、それをフルイに通してフライパンで焼くだけ。ただ実際にはコツもあるらしい。

案の定、アデミルジの料理はなかなかの大仕事になった。
予めジュースを取り出したココナッツを割って(アデミルジが割ったのかは定かでないが)、実の白い部分を専用の器具で削り出す。
確か、低い椅子に座り、ココナッツの半身のカーブに沿ってひたすら削っていたように記憶する。私もやってみたような気がする。

細かい作業の過程は曖昧だが、とにかく最終的に、皆でテーブルで頂いたことは覚えている。
加糖しないままのちょっと水っぽいココナッツミルクとココナッツの実のフレークの中に、タピオカの生地が確かに浸っていた。
アデミルジいわく、「少しだけ違うけれど、これが私がナタールで食べていたタピオカよ」。
(たぶん、ちょっと失敗作…?)

それでも、やっぱり私の大好きな食感の美味しいタピオカだったことは間違いない。
ああ、私はアデミルジの手料理も食べたんだなー。
もう1回作ってくれないかな。




2013 05 22

注:記事内の写真は著者から提供されました。