片山叔美のエッセイ

「ブラジル浪漫暦話」

<文:片山叔美>




(10)「世界平和とサウダージ」

2015年が始まりました。皆様は元日にどんなことを祈願されましたか。
もちろんブラジルでも元日は新年を祝福し、心新たに1年をスタートさせる日ですが、何よりも国民が心を合わせて祈ることがあります。それは世界平和です。

1967年12月8日、ローマ教皇パウロ6世が宣言した、毎年1月1日に世界平和を祈ることをキリスト教徒を通して世界中に広めようとする試みは今も継承されています。毎年教皇によってその年のテーマが決められ、人々はそのテーマを心に刻んで1年を過ごすのです。

1981年に始まった9月21日の国際平和デー(World Peace Day)と同様、全世界、隅から隅まで広がるべき大切な記念日といえるでしょう。
ところが折りしも、世界平和の祈りのさなかにあるはずの1月にフランスではテロが起こり、現在も厳重な警戒態勢にあります。戦争やテロの起こる原因・背景は複雑ではありますが、その根源にあるのは金と宗教・思想ではないでしょうか。
今回のテロ事件以後、特に「表現の自由」について議論が起きていますが、「自由」だからといって、他者が信仰している宗教を冒涜するような行為は間違っていると私は思います。

自由にだって制約があるのです。日本は幸か不幸か、冠婚葬祭以外では宗教に執着のない人や、困ったときの神頼みだけの人も多いです。宗教の教えの本(聖書・コーラン・経典など)を読んだり、教会やお寺に通って説法を聴いたりしなくても、きちんとした道徳心を持つことができる環境がある国です。日本の教育は神や特定の宗教を超えて(宗教を信仰としてではなく知識として学ぶことができる)、人としてどう生きていくのが正しいかを学べるようになっています。日本国民は誰でも学ぶ権利を持っていますし、学習を通して、自由とはいったい何であるのかも知っているはずなのです。
だからこそ、日本人の無神論者も特定の宗教を信仰している人も冷静な視点でこういった問題について考えることができるのではないでしょうか。世界平和のために日本ができることがもっとあるのではと思うのです。

さて、もう一つの記念日、1月30日「Dia da saudade(サウダージの日)」についても少しばかり。サウダージ(SAUDADE)という言葉、本エッセイでも使っていますし、日本のポップスで「サウダージ」という曲がヒットしたことを思い出す方もいらっしゃるかも知れません。
ポルトガル語特有の言葉で、他のどの国でもぴったりと置き換えられる単語がなかなか無いと言われています。
語源はラテン語の「孤独」(現代ポルトガル語では「solidão」)を意味する単語「solitute」からきているらしく、言い伝えによると、ポルトガルの大航海時代に愛する人を国に残し、新しい大陸をめざし海へと出て行った人々の思いを、SAUDADEと言うようになったとのことです。
もしかしたらもう故郷の土を踏むことができないかも知れない、愛する家族にも二度と会えないかも知れないという何とも言えない切なさ…それは愛を知っている私達人間が誰でも理解できる気持ちです。

ブラジルの詩人たちはSAUDADEという単語を使った数々の詩を残しています。もちろん歌の歌詞にもたくさん使われています。人間の心から愛が消えない限り、SAUDADEという単語がなくなることはないでしょう。

2015年1月19日