アヴェーナ・デ・カストロ

アヴェーナ・デ・カストロ
Avena de Castro

Dec.07 1919 Rio de Janeiro, RJ
Jul.11 1981 Brasilia, DF

アヴェーナ・デ・カストロはチター奏者でジャコー・ド・バンドリンの最後のレコード録音を共にしたことで知られています。

チターはドイツ、ポーランド辺りの民俗楽器です。ブラジルでもドイツ、ポーランド系移民が多いパラナ州やサンタ・カタリーナ州ではまだ盛んであるようでネット上に幾つかのチタークラブが散見されました。

映画「第三の男」の封切りは1949年、そこでチターの名曲「ハリー・ライムのテーマ」がドイツ文化圏(?)のウィーンの街をバックに流れました。演奏はハンガリー人のアントン・カラス(Anton Karas)です。

さて、カリオカでカストロという如何にもラテン系の名字を持つアヴェーナが何故ドイツ・ポーランド系楽器のチターを弾くことになったのか、ずっと疑問に思っていました。
そこで2012年11月、一面識も無いパラナ州クリチバ市にあるチタークラブに「アヴェーナの疑問」についてメールで問い合わせたところ、クラブ理事のエンリッケ・メナリン氏より「分からない」との返事があり、話はそれきりになっていました。
まあ、仕方ありませんね。突然に地球の反対側の見知らぬ男よりカタコトのポルトガル語で100年前のリオデジャネイロの演奏家の問い合わせを受けても戸惑うばかりと想像します。
ところが3年後のことです。2015年4月、同じメナリン氏より「最近ブラジリアで出版された本に君の疑問に関係しそうな記事を見つけたよ」とのメールを受け、その章の一部が送られてきました。これが参考文献にあげている“A Velha Guarda Do Choro No Planalto Central”です。
(メナリン氏のメールに添付されていた資料を迂闊にも保存し忘れ、本も入手できていません。当時の原稿と記憶を元にこれを書いています。)

また同じ頃、アニマルの「オ・ショーロ」の翻訳にも手を染め始めていました。ここでも「アヴェーナの疑問」に関連する記述を見つけたのです。

嬉しかったですね。ほぼ同時期にそれも互いに無関係の資料がクロスすることで数年間の疑問に解答を得られたのです。

それで個人的にはこの二つの証拠でアヴェーナのチター由来が分かったことにしました。(勝手に断言していますが、本当のことは言うまでも無くアヴェーナ本人にしか分かりません)

ちなみアヴェーナがチターを始めたのは戦前の1930年代で「第三の男」よりずっと前のことになりますので「映画の影響で始めた説」は却下です。

1919年生まれのアヴェーナは陸軍学校の生徒でした。ここで、12歳のアヴェーナは生涯にわたってチターの先生で友人となるカルロス・チル(Carlos Tyll)に出合います。チルはドイツ系移民(ウィーン出身)でチターのクラシック奏者でした。チルはアヴェーナと彼の弟ウンベルトを厳しく指導しました。(このカルロス・チルが1936年に出版されたアニマル著の”O Choro”に登場しています)

50年台、アヴェーナはそれまでバッハやショパンなどのクラシックばかり弾いていましたが、ある時ピアノのエルネスト・ナザレの曲をチター向けにアレンジし直しました。それ以来ショーロに興味を持ったようです。

ちなみに、アニマルによればチルはカツロ・ダ・パイション・セアレンセの伴奏者であったようですし、また同書アカリ版の解説によれば、チルは授業用にクラシックだけでなくショーロの手書き楽譜も使っていたとのことです。チルがアヴェーナにクラシックだけを強制していたとは思えません。

1953年から54年にかけカニョートのAbismo de Rosas、ゼキーニャ・デ・アブレウの”Branca” 、 “Tardes de Lindoia”を録音しています。

62年にはジャコー・ド・バンドリン、エポカ・デ・オウロと共に大統領府に招かれています。

1960年台後半にブラジリアの建設に伴う工事の出勤簿係としてブラジリアに居を移します。

69年、アヴェーナはAvena de Castro Relembra Jacob Bittencourtを発表しました。
この中のアナクレット・デ・メデイロス作曲のTres Estrelinhasがジャコーの最後の録音と言われています。
この年の8月ジャコーは急死しましたが、アヴェーナはレコードの制作を中断せず、LP全体をジャコーへのオマージュとし、この中でEvocação a Jacob(ジャコーの降臨)をジャコーへ捧げています。

1977年9月9日、フランス系のフルーチスト、オデッテ・エルネスト・ジアスの家で今でも活動を続けている”ブラジリア・ショーロ・クラブ”(Clube do Choro de Brasília)が結成され、アヴェーナが初代理事長に選ばれました。

 

再編集Jul.26 2017
再々編集Nov.02 2021

O Grande Agradecimiento p/Sr.Henrique Augusto Menarin, Associação de Citara de Curitiba, Paraná

ユーチューブ:Avena de Castro – Evocação de Jacob

参考:Dicionario Cravo Albin da Musica Popular Brasileira
Casa do Choro
Clube do Choro de Brasília
“A Velha Guarda do choro no Planalto Central”, organização de Ana Lion e Sebastião Rios, e fotografias de Marcelo Feijó
Acari;O Choro: Reminiscências dos Chorões Antigos
ショーロはこうして誕生したショーロ(O Choro)

ショローンとその時代